「お釈迦様に逢いたくて」 8』


ネパールのルンビニ園。

ここは、お釈迦様誕生にまつわる伝説と実話が入り混じった地で、私た
ちが行った時もアジア諸国の巡礼者たちで賑わっていた。

伝説によると、今からおよそ2500年前、釈迦族のスッドーダナ王の后マ
ヤ夫人は「天国から九つの牙を持つ白い象が下ってきて自分の体に入る」
という夢を見た直後懐妊。
出産が近づいたマヤ夫人は、里帰り出産の帰途につくが途中で立ち寄っ
たルンビニ園で菩提樹に手をかけたとき、右脇から王子を出産したとい
われている。
また、天地を指差し「天上天下唯我独尊」と言われた伝説も有名な話で
ルンビニ園の中央に建つマヤ堂の中に入ると、ガラス張りのケースに守
られた誕生地を誰でもが見学できるようになっていた。

ガイドさんの話によると、お釈迦様が生まれるよりずっと以前からイン
ドでは生まれながらにして身分を分けられてしまうカースト制度が続き、
出生の逸話も4つに分かれているということだった。
カースト制の中で、一番身分が高いとされた「バラモン教の僧侶」は頭
の上から生まれ、次いで軍人に属する者(王族も含む)は脇の下から、
商人などはお腹から、一番身分が低いとされる人々は足の下から生まれ
ると表現されているそうだ。
だから、お釈迦様が脇の下から生まれたと表現されているのは、生まれ
た身分を象徴しているという説明だった。

現在、インドではカースト制度は法律で禁止されているが、現実にはま
だまだ根深く残っているようだった。
日本でも欧米諸国でも、差別は依然としてあるので、インドに残る差別
だけを、取り立てるわけにはいかないが、歴史的な背景をここで感じた。
お釈迦様は、この人種差別を否定し、人間の品格は生まれた家柄ではな
く、生きて行ってきた行動こそにあると説かれた。

聖人を尊び過ぎて、誕生伝説が超人のような話には、やや疑問が残るが
この場がお釈迦様の誕生地であったことだけは事実のようだ。マヤ堂の
裏に立つ、インド初代の王、アショカ王の王柱には、それを立証する銘
文が刻み込まれてる。

澄み渡る青空のもと、王柱の前で静かに法要が執り行われた。私も末席
で皆さんと共にお経をあげさせて頂いたのだが、自分がお釈迦様の誕生
地でお坊様と共にこの場にいることが、なんとも不思議に思えてならな
かった。
                      つづく


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