「天の河に橋かけて」(13)

■[平和の民・ホピ族の村へ 2]

1999年10月、私が初めて向かったアメリカの地は、ニューヨークでもなければロサンゼルスでもない、アリゾナだった。

そう、アメリカ最古の少数インディアン「ホピ族」の人々が住む地だ。「ホピの予言」等でも知られている、平和の民と呼ばれる人々である。実は、少数民族や先住民族の叡智に興味を持ち始めた頃から、ホピ族のことが気になって仕方が無かった。

天河神社に行っても、ホピの人々が来ていたり、レラさんの所にも来ていたり…と、ことごとく私の行く前にホピ族の人々が現れていたのだ。

ホピ族にはカチーナと呼ばれる聖霊の人形がある。インターネットでホピのことを調べていて、カチーナの中に「Aya」という聖霊があることを見つけた瞬間、私の心臓が激しく打った。

いつか、「Aya」を探しに、ホピの村に行かなければ…そう思ったら、あっという間に機会は訪れた。その当時、ちょっとした縁で知り合った女性がアリゾナツアーを企画したので、行かないかと誘ってくれたのだ。

「ホピの長老が世界から8人大切なセレモニーに呼んでいて、貢物を渡すんだけどAyaさんもその中の一人なの。だから、行きましょう」

私はその言葉に強く惹かれ、大枚を叩いて参加することにした。が、セドナで彼女は「そんな話はした記憶がない」と言う。更には、ホピの村に行く予定はないので、どうしても行きたかったら全員を説得してくれという。

セドナという場所は、特徴的な真っ赤な巨石群と森と川に恵まれた風光明媚な美しい所だ。かつてはネイティヴの聖地だった時代もあったようだが、西部開拓時代に白人の町となり、1970年代、ある超能力者がボルテックスと呼ばれるエネルギーの放出した場所だと言ったところから、当時はニューエイジ、最近まではスピ系の人々のメッカのような場所になっていた。

今は、高級別荘地として、アートとハイキング中心の町となっている。しかし、私が最初に訪れた頃は、ニューエイジからスピ系に移行している時代だったが、まさに精神世界真っ盛り。そのツアーに参加して、アメリカに来てから知ったのだが、ニューエイジショップや某セミナーの参加を楽しみに来た人たちばかりだったのだ。私自身はニューエイジショップにも、セミナーにも全く興味が無かった。

私がアリゾナへ来た目的はただひとつ。ホピ族の村へ行くことだけ。セドナから、車で約3時間。まるで、目と鼻のような距離ではないかと思った。しかし、ツアーに参加した人々は、アメリカインディン最古の部族の集落に行くことになど、感心も興味もない様子だった。私はたかだか3時間!でも興味の無い人にすると移動だけで往復6時間もかかる場所に、行くことは苦痛に思えたのかもしれない。

「皆さんに申し訳ないので、明日は私一人でホピ族の村へ行きます」

そう言った途端だった。一人の人が一緒にホピの村へ行くと言い出すと、つぎから次に手が上がり…そして最終的には、全員がホピ族の村へ行くことになった。ガイドを引き受けてくれたのは、小柄な日本人女性だった。彼女は、ホピの村へ幾度も行っているので、案内役としては適任だった。

何処までも続く砂漠の中のハイウェイ。乾ききった大地にサボテンの群集が並ぶ。セドナを出てから、およそ3時間。ほとんど休憩もなく走り続けて、やがて車が止まった。そこからは、はるか先に『メサ』と呼ばれる垂直に大地が盛り上がった大地が見える。そう、その大地こそ、ホピの村なのだ。

私達は、そこでまず祈りを捧げた。そして数枚の写真を撮った。ここから先はホピの領土であり、決して彼等、また彼等の土地でカメラを向けてはいけないことを教えられたからだ。折角、写真を沢山撮ろうと意気込んでいた私は少し残念だったが、潔くカメラをトランクの中に入れた。車はゆっくりとホピの村に入っていった。

ホピ族の大地は大きく分けて、3つのメサに別れている。サード・セカンド・ファーストの各メサがあるのだか、各メサは随分と離れている。ブロックを積み上げてできている家が、乾いた大地に続く。しばらく進むと、学校や病院、食料品店などがあった。そこからかなり離れた場所に、レストランとホピの歴史的な資料を展示しているスタジアムがあったので、私達はそこで昼食と休憩をとることにした。

広場では聖霊人形のカチーナを売っている。驚くほど日本人と似ている人々が、昼下がりの「時」を楽しんでいた。親近感を覚えて近付くと、満面の笑顔で応えてくれる。いくつか並ぶカチーナを眺めているうちに、突然、旅の目的を思い出した。そう、カチーナのAyaに会うことを。

私はカチーナ売りのおじさんに尋ねてみた。
「Ayaはありますか?」
「Ayaなら目の前にいるこれさ」

おじさんは、数あるカチーナの中でも、取り分け変わっている宇宙人の
ような不思議な人形を差し出してくれた。私はカチーナのAyaが、虚無僧のような、宇宙人のような姿にやや驚いたものの、まさかこんなにすぐに会えるとは思ってもみなかったので、感激だった。

私は、自分の名前がAyaであること、そしてAyaのカチーナに会う為に日本から来たことを話した。すると、おじさんは凄く感激した様子で「本当か?」と何度も言い「今日はいい日だ。生きたAyaに会えたよ」と喜んでくれた。

おじさんは、Ayaは「平和のメッセンジャー」の聖霊であると教えてくれた。『平和のメッセンジャー…』私は何度もこの言葉がグルグルと自分の中で巡った。

その日、ガイド女性の案内で、ファーストメサの近くに住む、ロアーナという女性の家を皆で訪ねた。ロアーナは、地球の母を連想させるような、しっかりと大地に根を下ろして生きている知的な女性だった。

正直な話、その時何をどう話したのか記憶にない。しかし、ロアーナと私の間に互いに何か強い結びつきを感じたことだけは確かだ。

皆で帰ろうとした時、ロアーナは私を呼び止めた。

「Aya、あなたは今夜ここに泊まりなさい。明日からセレモニーが始まるから、それに参加するといいから」という。私はロアーナの家に泊まりたいと思った。がロアーナはすぐに考え直して

「やはり、今夜はセレモニーの準備が忙しくて、ゆっくり寝てもらうことも出来ないから、明日もう一度来なさい。そうしたら、セレモニーに連れて行ってあげるから。明日、ちょうどセドナからこの村に車を出す友人がいるから、彼女に連絡して連れてきてもらうといいから」

そう言うと、友人の電話番号をメモに書いてよこした。翌日は、私以外全員が某セミナーに朝から晩まで参加する予定になっていた。

私は、飛行機の中で某セミナーの話を聞いたが、興味が持てなかったので断っており、翌日は全くのフリー状態だった。

翌朝早く、私は再びホピの村に向かう為に、迎えに来ていたワゴン車に乗り込んだ。そう、ホピ族のセレモニーに参加する為に。

                          つづく