『たまたま (4)』

次の日の夜、私の携帯が鳴った。
相手はこの経緯を伝えてあった、明治神宮担当窓口の女性からだった。
私の心臓は高鳴った。責任者の方からの返答を頂くことになっていたのである。
祈る気持ちで、私はその声に集中していた。
「これから、お伝えするのは、上司の言葉そのままです」と彼女は前置きをしてから
慎重に言葉を選びながら本題に移った。

携帯を持つ手が緊張で強張る。


「明治神宮でアイヌの方が語るということは、たいへん困難なことです。それは、様々な問題が生じて来る可能性があるからです。しかしそこを避けていては、新しい時代に進めません。そのアイヌ女性の勇気に敬意を表して、明治神宮側としても正式に
この申し出をお受けすることにします。いい催しをしましょう」。

私は、涙が溢れて言葉にならなかった。電話口で伝えてくれている女性も泣いていた。

「神様、ありがとう」
私は、神様に心から感謝した。
そして、レラさんと明治神宮で実現に向けて働きかけてくれた方々に心から感謝した。

何か目に見えない力が、着実に新たな時代の扉を開けている。
そう実感させてくれる瞬間だった。

「神話を語り継ぐ人々」の東京公演まで、後40日に迫ろうとしていた。

東京以外で公演を行う札幌や熊野は順調に実行委員会組織が動き始めているらしい。東京でも、どうにか実行委員会組織は出来たのだが、事務局を置く場所がなかなか見つからない。私は場所探しに懸命に動いた。
この規模のイベントでは、自宅件事務所の我が家に事務局を置くのは不可能だ。
だからといって、安い家賃でその期間だけ貸してくれるような都合のいい場所など、あるはずも無い。刻々とチケット発売日が近づく。

そんな時、『縄文とチベット密教の音霊に学ぶ集い』と題した講の講元として、奈良県・天川村にある天河神社へ行く日がやってきた。不思議なことに、それまで不安に包まれていた心が、霧が晴れるように穏やかになった。

「天河から戻ったら、必ず場所は見つかる」

私は、どこか確信めいたものを感じ始めていた。


つづく…