DVD「熊野大権現」撮影雑記


■「森羅万象への旅路」14

那智原始林は、樹齢1000年を越す天然杉や、高さ10メートルにも
及ぶ照葉樹林が混在する自然の宝庫だ。現在、かなりの面積が国の天然
記念物として保護されている。
「世界遺産になったことで、那智原始林がこれからも永久に守られるこ
とになったことが、このうえなく嬉しい」と那智大社の朝日宮司が満面
の笑みを湛えて話してくれた。
那智原始林の奥には、全部で四十八の滝があり、私たちが通常「那智の
滝」と呼んでいるのは「一の滝」という。
断崖133メートルの大滝は、3つの滝口から落ちているので「三筋の
滝」とも呼ばれている。

私達はこの日、一の滝の源流と二の滝、三の滝まで向かうことにした。

ガイドは、前回同様、熊野の写真家であるクスモトさんにお願いした。
クスモトさんは熊野の写真を撮り続けて40年。熊野が世界遺産となっ
た今、その大自然を余すところ無く撮った写真は世界的な評価を受け、
様々な賞を受賞している。そんな大御所のクスモトさんに、原始林の案
内をしてもらえることは、この上なく有難く、また安心なことだった。

那智原始林に一歩入った途端、空気ががらりと変わった。
幾重にも重なる緑色は、鮮やかに目に映る。どこまで続いているのかわ
からない、深い森の奥から澄みきった冷水が流れてくる。
畏れ多くも、那智のご神体である一の滝の源流に、そっと足をつけてみ
た。くるぶしの上を、ひんやりとした水が通過する。カメラマンのサク
マさんとケンちゃんは、ズボンの裾をまくし上げて、次々とポイントを
抑えながら撮影している。
私は、なんと有難い仕事なのだろうと思いながら、神水の感触をしばら
くあじわっていた。

一の滝の撮影を終えた後、山道を通って二の滝に向かった。ややしばら
くすると、エメラルドグリーンの水面が広がる二の滝の滝壷に出た。
この滝水の姿は実に美しい。二の滝近くの山中に、花山法皇の御籠所が
あったというのもうなずけた。
その後、更に急な山道を越えて三の滝に向かった。この道はかなりの急
勾配だったが、何故かワラジはウォーキングシューズより歩きやすく、
全く足の裏も疲れない。
昔の人はワラジで山越えをして、さぞや厳しかったことだろうと思った
が、意外や意外。自分でワラジを履いてみて、山道歩きに向いているこ
とを知った。
原始林や滝の撮影を終えて、登って来た道を下り舗装された道に出た途
端、足の裏が急に痛くなった。
ワラジは、土や石の上なら歩きやすいのだが、舗装されている道には全
く向かないらしい。
舗装道から駐車場までのわずかな距離を、足を引きずりながら歩いたの
だが、心は幸せに満ちていた。

この日、撮影を終えて私たちが向かったのは、高原という集落にある杣
小屋という場所だった。
実は、前の撮影の折に偶然見つけたのだが、なんと風呂場にはアケビが
自生し、そこに木をくり抜いた湯船があるという、なんとも味わい深い
場所だったのだ。
                         つづく…