『神戸からの祈り (6)』

天河神社から戻った夜、私は一睡もできなかった。

この日わが身に起きたことや、目に見えないところと自分が繋がる感覚が不思
議でならなかった。しかし今生、生を受けた理由がほんの少しだけわかったよ
うな気がして、眠れなかったのだ。その思いを誰かに伝えたくて、結局、数時
間前までお会いしていた宮司さんに、幾枚もの長い手紙を書いていた。

そして翌日、私は会社に辞表を提出した。

関わることになった平和イベントは、同じタイトル名で神戸では8月8日と東京
では10月10日にそれぞれ祭りを行うことが決まっていた。
しかし、正式タイトルがなかなか決まらず、次の会議までに正式タイトルを決め
なければ、イベントスケシュール的にマズい状態だった。天河から戻ってきた数
日後、私は夢の中で『神戸からの祈り』という言葉が幾度もリフレインして、目
が醒めた。
私は直感的に、この言葉がタイトルなのではないかと思った。

大地が揺れて神が戸を叩いた神戸。この時、人も自然の一部であると知らされ
、またほんの一瞬ではあったが、人の心の境界線が溶けて無くなったような感
覚も味わった。そして、この時、神戸は日本中、世界中の人々から無償の愛を
届けてもらったと思う。しかし、2年後に同じ神戸で、14歳の少年・酒鬼薔
薇聖斗による信じられないような事件も起った。神が戸を叩いたのは、大震災
という天災だけではなく、人類に様々な警鐘を鳴らしたかったのかもしれない。
震災から3年経って、改めてこの場で祈りたいと思った。
世界中から愛を届けられた神戸から、今度は愛を届けたい。そして神戸から世
界中に向けて祈りたいという思いが『神戸からの祈り』という言葉になって現
れたのかもしれない。

私は、それまでほとんど話もしていなかった鎌田東二さん宛てに夢中で『神戸
からの祈り』というタイトル案とその理由を書いてFAXで送った。

3月末行われた会議で、タイトル協議をした結果『神戸からの祈り』が正式に
決まり、更に神戸は「満月祭コンサート」、東京は「おひらき祭り」という副
題が決まった。

それから数日後、送られてきた実行委員会の名簿を見て、私は大変驚いた。

実行委員の中に、天河神社の宮司さんの名前も連なっており、賛同者の中には
龍村監督の名前もあったからだ。そして、東京の「おひらき祭り」には、ボブ
・サムも出演することになっていた。

どうして、全てが繋がっていくのだろう…。

私は、目に見えない糸に結ばれていく不思議さを改めて実感していた。

つづく・・・