『神戸からの祈り (14)』

7月中旬になると、関係スタッフは200名を越えた。

事務局本部や舞台進行関係のチームのほかに、縁日バザールなどの出店関係を
取りまとめるチーム、募金集めの要となった祈りの冊子編集チームや五色の布
チーム、警備チーム、ゴミやトイレを管理するチーム、医療看護チーム、現代
アート展や陶芸展、シンポジウムなどを関連イベントの企画チームなど、様々
な人が急ピッチで準備を整えていた。
そして、そのスタッフ数は日に日に膨れ上がっていた。

何をどう処理しながら、日々過ごしていたのか今となっては記憶にないが、と
にかく朝から晩まで事務所で様々な仕事に追われ、自宅にはほとんど夜中に寝
に帰るといった状況が続いた。

7月24日。
いよいよ、最初の関連イベントが神戸の酒倉を改良したホールで行われる。
この日の会場は、偶然にも、以前写真家の須田さんと共に神戸を歩き回って、
最後に出合ったお寺のすぐ傍にあった。
実は、このお寺には、四国八十八箇所のお寺の名前が書かれた小さなお地蔵様
がいらっしゃる。
それを知った東京実行委員の吉田さんが、八十八のお地蔵様に真っ赤なアブち
ゃん(前掛け)を奉納することにしたので、実行委員の何名かでこのお寺にご
祈願兼ねて、お参りしにくことにした。
奥様に案内されて、エレベーターに乗り本堂にある阿弥陀如来様に全員で手を
合わせ、まず震災で亡くなった方々の鎮魂を祈る。

静かにお参りを終えて会場につくと、会場はかなりの数のスタッフや関係者で
賑わっていた。
この日は「神戸からの祈り」の出陣式も兼ねていたから当然かもしれない。

陶芸家の近藤高弘さんが中心となった陶芸チャリティ市には、陶芸家として活
躍している人々の作品が、信じられないほど安い値段で出されていた。
この機会に是非買いたいと思っていた私は、既に完売していた机を見て、少し
ガッカリもしたが、集まっている人の熱気は嬉しかった。

しかし、懇親会を挟んで行われたコンサートで気持ちは一気に盛り上がった。
この日の出演は、私を最初にこの平和イベントに誘ってくれた佐々木千賀子さ
んのソプラノと林昌彦さんのピアノ演奏そして、岡野弘幹with天空オーケ
ストラの迫力ある民族楽器による演奏。
贅沢な空間…贅沢な時間…。
私はこの時、気持ちが一つにまとまっていく心地良さを感じていた。

イベントが無事終了し、片付けも全て終えてホールのカギを返却し、帰ろうと
思った時だった。
楽器をちょうど車に積み込み終えた天空オーケストラの岡野弘幹さんが、話し
かけてきてくれた。

「事務局長の仕事、本当にありがとう。目立たない仕事だし、大変なことも多
いと思うけれど、僕たち感謝しているから、本番に向けて、後もう少し頑張っ
てね」

イベントの裏方責任者として、誰よりも遅くなるのは当たり前だと思っていた
し、ねぎらいの言葉などかけられたこともなかった。
無事初日のイベントが無事終わった安堵感と、あまりの驚きと嬉しさで、私は泣け
てきた。

つづく…