2002/08/09 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     ☆★☆   TEN's magazine 第30号   ☆★☆    
  
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 こんにちは!天川 彩です。

お陰様で、TEN’s magazine も今回で30号を迎えました。
こうやって、毎週続けて発行出来るのも、読んでくださる皆様がいらっ
しゃるからこそです。本当に、いつもありがとうございます。

実は、先週の「縄」のコラムに関して、読者のヒロシさんから、下記の
ようなメールを頂きましたので、ご紹介しますね。

 何故縄なのか…
 実は蛇です 昔の人にとって蛇は神秘の象徴でした。
 何度も脱皮する それは死からの甦生を意味していたようです。
 そして人の魂を射抜くような眼差し
 蛇を敬い 蛇を祀ることによって 魔物から守ってもらう
 それが素朴な心情だったようです。
 なお この説は昔からもいわれていたようですが
 僕は梅原猛の本で知りました。

なるほど…。
確かに、蛇に対する信仰は昔からあったようですから、その表現のひと
つとして縄を蛇に見立てるというのは、納得がいく説です。

さぁて、今週のメルマガは…(サザエさん風)
連載「天の河に橋かけて」が、ほんのちょっぴり不思議モードに…。
童話詩は子供たちに好評な「ある日の海辺で」をお届けしま〜す。



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◇◇今日の目次◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇
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1・連載========= 「天の河に橋かけて」(7)
2・イベント情報===== 『屋久島の森の話を聴く会』
3・コラム・風の文様=== 「放浪料理人」
4・童話詩の世界 ==== 『ある日の海辺で』
5・編集後記======= ひとりごと
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【1】◆◇連載◆◇
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■ 「天の河に橋かけて」(7)

□魂の道標 1

自分の体調を崩して、初めて聞いた心の叫び。
1999年9月。私は心に問いながら、風が吹くまま、魂が命ずるまま
行き先も決めず、旅に出ることにした。

「東北に行こう」
どうして、そう思ったのかはわからないが、北を目指すことにした私は、
とりあえず東北新幹線に乗る為、東京へ向かった。

しかし、東京に着いた途端、台風の影響で東北へ向かう新幹線が軒並み
止まってしまっていた。
その日は、取りあえず駅で紹介してもらった銀座のホテルに泊まり、翌
日、東北へ発つ予定にしていたが、次の日もまだ交通網が混乱していた
上に台風は東北地方に向かっていたので、私は急に東北へ向かう気力が
失せてしまった。

だが、正直な話をいうと私は東京に全く魅力を感じていなかった…とい
うより、あまり好きな場所ではなかった。だから、早く別の場所へ移動
しようと思っていた。
が、肝心の向かう場が自分の中で決まらない。

「どうして、私は東京にいるんだろう…」

取りあえず、東京に住んでいる何人かの知り合いに電話をかけたのだが、
どういう訳か誰にも繋がらない。
たった3年前の話だが、当時はまだ携帯は、今ほど普及しておらず、友
人の中でも携帯を持っている人は少数派だった。

話し相手もいない、大都会の中の人ごみ。
目的も無く、ただそこに居るだけの私。
そう考えていると、とてつもなく「自分」という存在に心細くなった。

ならば…私は大都会を毛嫌いせず、この孤独感を逆に楽しもう…。

その日、青山のホテルにチェックインした私は、足がくたびれるほど東
京の街を一人歩いてみた。

夕方、高級食材を扱っている紀伊国屋スーパーで、バゲットやデリカ、
ワインを買い込んだ。ホテルに戻り、表参道で買ったバブル入浴剤をバ
スタブに入れて、ゆっくりとバスタイムを過ごしてから、一人でリッチ
なディナーを楽しんでみた。
自分の為に、自分が演出した優雅な時間…。
自分に「お疲れ様」と労ってあげているようだった。
「東京でのこんな時間も悪くないな…」そう思った途端、心の底に固ま
っていた頑固な何かが溶け出していったように思えた。

翌日、急に思い立ち、知り合いを尋ねて渋谷のNHKに行くことにした。
NHK渋谷放送局は、亡き父が単身赴任の時期も合わせると20年近く
居た場所だ。
子供の頃、幾度か父を尋ねて行ったことがある。
普段家で見せる父の顔と局の中での父の顔は、まるで別人のようで、幼
心に格好いいと思った。
ほんの少しの不安を抱えた一人旅。亡き父の気配をどこかで感じながら
動きたかったのだろうか…。
これといって、その知り合いと話すことがあった訳でも無かったにだが、
久しぶりにNHKの中に入りたいと思った。

この日、約束の時間より3時間も早く着いたので、とりあえずコインロ
ッカーに荷物を置いて、周囲を散策してみることにした。

と、途端に大きな森が目に飛び込んできた。
「へ〜。東京のど真ん中に、こんな大きな森があるんだ…」
私は、そこが明治神宮の森であることを全く知らなかった。

大鳥居を潜り、鎮守の森に入った途端だった。

私の後頭部と背中に向かって、強い風が吹いてきた。
立ち止まることも出来ないような、強い風が私を押し続ける。
だが、不思議なことに森の木々は風に揺らされてはいないようだ。
私は、風に押されるまま進んだ。

そしてその風は、神宮の森の一番奥にある建物の前で、ピタリと止んだ。
導かれるように連れて行かれた場所にひっそりと佇んでいたのは、宝物
殿だった。

中に入ると、ギシギシ床板がしなる。
相当古い建物のようだ。
中には、明治天皇ゆかりの品々が展示されており、壁面には、神武天皇
から昭和天皇まで歴代天皇の肖像画がかけられていた。

「何故、私はここで、天皇の肖像画を見ているのだろう…」

およそ2時間。ただただ私は歴代天皇の肖像画に囲まれて過ごしていた。
簡単にその疑問の答えなどわかるはずも無く、それは今もまだ尚謎なの
だが、何か強い力で明治神宮に呼ばれたような気がした。

約束の時間になり、NHKの知り合いに会いに行った。
が、失礼な話だがその時相手と何を話したのか、今となっては全く覚えて
いない。結局のところ、私は明治神宮に呼ばれて行く為に、その近くにあ
ったNHKがプロセスとして思い浮かんだだけだったのかもしれない。

そして、その日の夕方、急に八ヶ岳へ行こうと思った。
以前から、その時期に八ヶ岳で野外音楽イベントがあることは、友人から
聞いていたが、この旅を始めた時は、八ヶ岳に行くことなど全く頭の中に
無かったことだ。

自分でも可笑しかった。
どうして…急に明治神宮から八ヶ岳なのだろう、と。
実は、2年後その答えがわかるのだが…その時点では、わかるはずもなか
った。

そして、銀座のデパートへと走り、寝袋と防寒用の服、登山用靴下やそれ
らが入る大きなカバンを購入した。
(今なら、決して銀座でアウトドア用品は買わないと思うが…)

翌朝、私は八ヶ岳に向う為、電車に乗った。


つづく…


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【2】◆◇【屋久島の森の話を聴く会】 ◆◇
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この日、この空間は、屋久島になる。

『屋久島の森の話を聴く会』

日 時  9月 23日(月・祝) 14:00〜16:00
会 場  ムーブ町屋 ハイビジョンルーム 
    (営団地下鉄・千代田線 京成線 都電「町屋駅」下車1分)
参加費  前売り1500円  当日2000円
    
お話し  藤村正敏さん (屋久島・山と森の案内人)

 
神々の住む島・屋久島。
樹齢7200歳。世界最長老の『縄文杉』は、
この島の森の奥で、今も生きています。
深い深緑色でうめつくされた苔森や、
天界に聳え立つような、巨石の数々。
どこまでも澄んだ水に潤うこの島は、
世界遺産にも登録されている、
日本が世界に誇る島。

そんな屋久島で生まれ育ち、
島の山という山、森という森を知り尽くした男。
「天と大地に感謝する旅」の屋久島ナビゲーターとしても
お世話になっている藤村さんが、
この日、屋久島の魅力を語りにやって来ます。
会場は、ムーブ町屋のハイビジョンルーム。
屋久島の大自然の魅力を余すところなく、
ハイビジョンの大画面で堪能しながら、
屋久島の豊かな森や山の話しや、屋久島に伝わる神話などについて、
存分に語って頂く予定です。

また、映画「もののけ姫」制作時、「コダマのいる苔森」や
「シシ神の神秘の湖」などのモデルとなった場所を、
宮崎監督はじめジブリのスタッフに案内した時のお話や、
今秋から始まる、NHK朝の連続ドラマ「まんてん」にまつわる
裏話なども、こっそりお話してもらおうと思っています。
どうぞお楽しみに!

申込みは…http://www.office-ten.net

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【3】◆◇コラム・風の文様◆◇
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□『放浪料理人』 

ハカセと出会ったのは、5年前。
屋久島でのことだ。

空港からバスに乗った時、妙に変った服装の青年が乗り合わせたことは
気がついていた。
グレーのマントに編み上げブーツ、そして山高帽。
何となく、銀河鉄道999に登場する鉄郎のような風貌。
職業も、年齢も素性も何もかもわからないような、とても不思議な青年
だった。

彼の名はコウタ。
でも、私と子供達は、彼のことをハカセと呼ぶ。
何故なら彼は、まるで食の博士のようなのだ。

ハカセは出会った日、息子が捕まえていた虫を見て、
「この虫は、食べることが出来るよ。いいかい、こんな山の中ではね、
食べられる草、食べられる虫を見分けることが出来るかどうかが、生死
を分けることもあるんだよ」と言う。
以後、子供達は虫を捕まえてはハカセの前に持っていき「これは食べら
れる?」と連発して聞いていた。

彼は現在28歳。世界中を放浪しながら、民族料理を覚えている最中だ。

5年前、屋久島で会った時は、アジアをまわって帰国したばかりだった。
マントの中には、カトマンズなどで購入したという何十種種類者もの香
辛料と、韓国のステンレス箸とスプーンが入っており、スパイシーな料
理をいくつも作ってくれた。

3年前オーストラリアから戻って来た時には、神戸の家まで遊びに来て、
オーストラリアのお土産と共に、アボリジニの人々の食生活の話なども
話してくれた。

そんなハカセが2年ぶりで日本に帰って来た。
今度は、海外青年協力隊として、グァテマラに行っていたのだ。
彼の専門は食品加工。
現地の人々に、ビン詰めやカン詰めなどの技術を教えてきたそうだが、
彼の目的はだた一つ。先住民族マヤの人々の食生活に触れることだっ
た。

先日、事務所へ遊びに来た時のこと。
マヤの人々の食生活を聞いて、あまりにアメリカ先住民のホピ族の食生
活と似ていると思った私は、ホピ族のあるビデオをハカセに見せた。

ハカセはホピ族のことは知らなかった。

「アメリカには、まだあまり興味が沸かなくて…」と最初は言っていたが、
ビデオを観た途端、一変に考えが変ったようだ。

ビデオは、ホピの人々がトウモロコシと向き合って生きている姿や、粉に
挽いて薄く焼いて食べる食生活を、淡々と描いたものだ。
大抵の人は、退屈するような代物なのだが、ハカセは違った。
目を輝かせ、食い入るようにそのビデオを観た後「今度はホピ族を訪ね
なきゃ…」と言い出した。

今度は、お返しに…と、ハカセも自分のデジカメで撮ってきた、マヤ族
のトウモロコシの粉を挽く動画を見せてくれた。
確かに、トウモロコシを挽く石臼の形も食べ方も、ホピとマヤはほぼ一
緒だった。

以前、ホピの村へ行った時に、マヤ族の研究家の女性と出会った。
彼女は、マヤ族のことを調べていたら、ホピの村にたどり着いたと話し
てくれたが、今回、このビデオとデジカメの動画を見比べて、改めてそ
のことを思い出した。

「食を知ることは、民族を知ることなんです。僕はまだまだ、放浪し続
けて料理を通して先住民族に出会っていこうと思っているんです」

彼は来月から、1年間かけて南米を巡って来るらしい。
帰って来た時、ハカセはどんな話を聞かせてくれるのだろうか…。


いつか、彼と一緒に仕事をする日が来る様な気がしている。


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【4】◆◇童話詩の世界◆◇
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『ある日の海辺で』

                                
                      天川 彩

夏の日差しも傾きかけた午後、
一人の老婆が海辺の村にやってきました。

古木の杖に身をゆだね、
寄せては返す波の向こうを、ただじっと眺めています。
沖では、カモメやウミネコたちがクルクルと舞い、
入道雲は自在に海の上を渡ります。
忙しい村の大人たちは、彼女の存在に気付きません。

しかし、浜辺で遊んでいた、幼い兄弟のテラとテルは、
老婆のことが、気になって仕方がありません。
なぜって、老婆が海の前に立ってからというもの、
海の色が少しずつ変わっていくのですから。

テラとテルは、思いきって尋ねてみました。
「お婆さん、さっきから海に向かって何をしているの?」
老婆は目を細めてにっこり笑いかけました。
「どうしてだい?」

兄のテラが言います。
「だって、お婆さんがここに立ってから、
 海の色が変わってきているんだもの」

弟のテルも言います。
「海がどんどん青く透き通っていくんだよ」

老婆は、嬉しそうに、
「そうかい、僕たちにはわかるんだね。そうかい。そうかい」と、
二人の頭をなでました。
そして、つぶらな瞳を見詰めながら、優しい声で、語り始めました。


「昔、昔のずっと昔、
このあたりは、深い海の底だったんだよ。
その頃ここは、イルカ達の遊び場でね。
ところが、あの先の山が切り崩されて、
どんどん埋め立てられてしまったんだよ。
そして、街ができてからというもの、ちょとずつ、海が汚れていってね。
 知っているかい?
海にも心があるっていうこと。
海だって悲しむんだよ。
仲良しのイルカや魚達がいなくなってしまったことが淋しいって。
私は、故郷の海がどんどん悲しみ色に染まるのが、つらくてね。
年も年だからとは思いつつも、
勇気を振り絞って、ここに帰って来たんだよ。
誰かにそれを伝えなくてはってね。
海は『いのち』そのものなんだよ」

老婆はそう言うと、海の彼方を懐かしそうに見つめました。

「ねぇ、お婆さん誰?」とテラが聞きました。
「お婆さんはどこから来たの?」とテルも聞きました。

「私かい?私は…」
老婆が話そうとしたその瞬間、大きな虹色に光った波が、ザブーンと一
気に3人を包み込みました。


テラとテルが、気がついた時、辺りは静かないつもと同じ風景でした。
不思議なことに、服も濡れていません。
そして、海の色も以前と同じ、悲しみ色に染まったままでした。
二人は老婆を探しましたが、とうとう見つかりません。
しかし、耳をすますと遠い沖の方からかすかに何かが聞こえます。
目をこらして遠い沖を見た二人は、息をのみました。
野生のイルカが泳いでいるではありませんか。

イルカは、まるでテラとテルに挨拶をするように二回転して、
一気にもぐって行ってしまいました。

二人にはわかりました。お婆さんがだれだったのか。


夏が終わろうとしていた日、テラとテルは幻という真実に出会いました。
                               

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【5】◆◇編集後記◆◇
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夏のはじめ、エアコンが壊れていたことが祟ったのか、ここ1ヶ月近く
ずっと体調が思わしくなかった。
微熱が出たり、腰痛に腹痛…。更には親不知がズキズキと痛み出し、抜
歯するハメに…。

こんな病気のコンビニ状態(軽いってこと)から、やっと脱して、元気
復活!! 来週は、天河太々神楽講。これで、パワー炸裂かな?
                  
                          aya
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発行者   天川 彩

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