2009/05/08━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

   ☆★☆ TEN's magazine 第368号  ☆★☆ 
  
━━━━━━━━━━━━━━━━━━ http://www.office-ten.net

こんにちは、天川 彩です。

GWは、皆様どのように過ごされていましたか?
今年は高速1000円という恩恵で、遠出された方も多かったのではない
でしょうか。
私は、普段が遠出ばかりの生活なので、久しぶりに家の中や近所を満
喫していました。思えば、去年のGWはペルーでマチュピチュやナス
カの地上絵を眺めるという対極の過ごし方をしていました。
あれ?そういえば今年も今は確かペルーツアー中じゃなかった?って
思っていらっしゃる方もおられるかもしれませんね。

実は今年のペルーツアーは2月後半には取りやめていました。
昨年は、募集早々に満席になるほどの大反響だったというのに、今
年は凪。確かに不景気の影響もあるかとは思いますが、それ以上に、
何となく「あれ?変だな」という感じだったので、早い段階で中止
にして大正解。

今年のGW海外旅行は、新型インフルエンザの影響で大混乱。
中止にしても決行しても、大変な状況になっていたと思います。
本当にいつも守られているなぁ、と神様に感謝するばかりです。

そして、ペルーツアーを取りやめたからこそ企画できた「戸隠・善
光寺ツアー」はお陰さまで満員御礼。更には戸隠弁天様にも特別に
お参りさせて頂けることになり、有難い限りです。

人としての精一杯を尽くしたら、後は神意に添って動くというのが
私の信条でありTENの動きですが、ちゃんと成るようになるので
不思議です。

さ〜て。
昨年夏に募集をして、即座に満席になった世紀の天体ショーツアー
「皆既日食ツアー」ですが、来週のメルマガで、最終追加募集のお知
らせができることになりました。

2009年7月22日。種子島から奄美大島の間のみで観察できるという
「皆既日食」。今回を見逃すと、次は64年後という世紀の天体ショー。
5年ほど前からずっと見たいと思い続けていましたが、昨年の夏、遂に
TENらしい企画が完成。募集したところ即座に満席となり、更に枠
を広げて、現在は満席となっています。皆既日食に関しては、あまり
にも反響が大きく、HP上に掲載していると、毎日のように検索エン
ジンから辿り着く方の問い合わせが多い為、現在はHP上からも外し
ている状態です。

そんな中、1年も前からお申し込み頂いている方々の中には、都合が
悪くなる方も現れてくるのではないかと、先週、一斉に最終参加意
思確認のお手紙を出しました。その中で数名キャンセルの方が現れ
ました。もしかすると、後、もう少しキャンセルの方が出てくる可
能性もあります。

何名募集がかけられるかは、まだ定かではありませんが、来週改め
て、追加募集のお知らせをしたいと思います。
来週の金曜日は「戸隠・善光寺ツアー」中なので、夕刻6時頃配信
予定にします。
皆既日食をどうしても見たい!と思われている方は、来週のメルマ
ガをどうぞお見逃し無く。

それから、先週から募集開始した「南アルプス・大人の遠足ツアー」
は、残り3席です♪
美味しいもの、楽しいことが大好きな方には、絶対におすすめです
よ〜。

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◇◇今日の目次◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇
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1・コラム風の文様========「フランス絵画とポニョの少女」
2・TEN占い==========今週は「タロットカード」占い
3・新募集!==========「南アルプス 大人の遠足ツアー」
4・縄文の風を感じる旅=========「アイヌエコ体感ツアー」
5・連載小説================「雨弓のとき」65
6・編集後記===================「ひとりごと」
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【1】◆◇コラム・風の文様 ◆◇
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□「フランス絵画とポニョの少女」


上野の森にある「国立西洋美術館」は今年、開館50周年を迎える。

昨年から上野の森近辺では「国立西洋美術館を世界遺産登録に」という
旗が、あちらこちらで出ていてずっと不思議で気になっていた。

調べてみると、この国立西洋美術館を設計したのは、近代建築の巨匠
ル・コルビュジエというフランス人。そのコルビュジエが設計した世界
中に点在する建築物を一括して世界遺産に登録しようと、フランス政府
が推薦しているのだそう。現在は「ル・コルビュジエの建築と都市計画

として世界中にある22作品が世界遺産暫定リストに入っていて、日本で
は唯一、西洋美術館がその中に入っている。早ければ年内に世界遺産に
登録される可能性もあるらしい。

現在、国立西洋美術館では『ルーブル美術館展』が開催されているが、
開館50周年記念事業であるのと同時に、この世界遺産登録の動きと関連
があるように思う。

それにしても、上野の森はまさに芸術の森。国立博物館や国立科学博物
館、国際子ども図書館などが森の中に点在している。この森を歩くと心
が豊かになるような、そんな気がする。今までそれらの建物に幾度通っ
たかわからないほどだが、なぜか今まで国立西洋美術館に行く縁がなか
った。いや、西洋美術というものに、縁がなかったといった方が正しい
かもしれない。

しかし今回の「ルーブル美術館展」には、どうしても行ってみたかった。

もう四半世紀も前のことになるが、私は一度だけ、パリのルーブル美術
館に行ったことがある。
その時、あまりの建物の重厚さとスケールの大きさ、名画「モナリザ」
をはじめとして、教科書で見たことがある美術作品の数々を前にして、
二十歳を過ぎたばかりの私は、ただ気おくれして、居心地の悪さを感
じていた。世界の名作をどう鑑賞していいのかわからず、戸惑っていた
といった方がいい。

その時に、見た記憶はないが今回は、フェルメールの名作「レースを編
む女」など17世紀のヨーロッパ絵画が70点以上がやって来ている。
ただ、TVのニュースなどでも紹介され、聞くところによると数時間待
ちだったり、ようやく絵の前に辿り着いても、黒山の人だかりで、絵画
をじっくり観ることなど出来ないということだった。

大型連休が終わったばかりの昨日は朝からずっと雨だった。
さほど急ぎの仕事も無い。「よし!今なら絶対空いているだろうから、
直ぐに行こう!」ということになり、傘を差して上野の森まで歩く。
小雨に煙りながら新緑に萌える上野の森は、エネルギッシュだった。

平日の昼直前という選択が大正解だったのだろう。予想通り待ち時間も
全く無く、一つ一つの作品の前で、ゆったりと鑑賞することができた。
フェルメールの名作「レースを編む女」の前には、さすがに人が溢れて
いたが、それ以外の作品の前は、人もまばらだった。

ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの名画「大工ヨセフ」の前も、ラッキー
なことに誰もいなかった。
父親ヨセフとその息子イエス。幼き日の人間イエスが、蝋燭を灯しなが
ら大工作業中である父ヨセフの顔を見つめているような構図。蝋燭の灯
かりに透けるようなイエスの指先や、ヨセフのやさしい瞳は息をのむほ
ど美しかった。

私は、この作品を、間近に鑑賞できたことだけで大満足だったが、せっ
かくだからと常設展に行ってみると、モネの「舟遊び」や「睡蓮」、ル
ノアールの「帽子の女」、ゴッホの「薔薇」などの名高い絵画が、建築
家コルビュジエの建物に映えるかたちで展示されていて、驚いた。

いや本当に驚いたのは、常設展には、これほどの名画があるというのに、
ほとんど人がいないということだったかもしれない。

そして、帰り道。
更に更に驚いたことが。

あまりに気持ちよかったので、いつもと違う道を歩いて事務所へ向って
いると…なんと

♪ポ〜ニョ、ポニョ、ポニョ魚の子♪の

大橋のぞみちゃんが、ランドセル背負ってお母さんと一緒に目の前に。
どう見ても、間違いない。えっ?!と思っていると、目の前のお店兼お
うちの中に「ただいま〜」と入っていく。
確かに、看板には「おおはし○○店」と書かれている。
間違いなく、そこは大橋のぞみちゃんの自宅のようだった。

一緒に西洋美術館でルーブル美術館展を鑑賞していた、スタッフのキョ
ウちゃんと二人で「びっくりしたね〜。大橋のぞみちゃん、こんな近所
に住んでいたんだね〜」と興奮しながら事務所まで帰ってきた。

東京に住んでいると、芸能人の一人や二人、街角で会うこともあるし、
近所にも何人か住んでいる。いや、思えば友人にだって芸能人はいる。
しかし、やはり宮崎駿作品に関することとなると、話は別なのだ。
別にポニョに会ったわけでもないが、妙に嬉しくワクワクした気持ちに
なった。

やっぱり私たちは崇高なフランス絵画よりも、「崖の上のポニョ」の方
が感性に合っているのかもしれない。


*ブログにパンフを写した「大工ヨセフ」の写真載せています。
http://ameblo.jp/aya-tenkawa/

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【2】◇◆TEN占い◆◇
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所詮、天川 彩が占っているものですので、あまり深刻にとらえず、気
楽にお遊びとして楽しんでくださいね。
                          
今週は[タロットカード]で運勢を占ってみました。

2009年5月9日(土)〜5月15日(金)あなたの運勢

〈1月生まれ〉 
縁の下の力持ちになりそうな一週間です。今週は特に、人の相談にのっ
てあげましょう。でも言いたいことを我慢することとは違います。思っ
たことは素直に口に出してみて。 

〈2月生まれ〉 
未来に不安を持ってはいませんか。あなたが希望をもっている限り、き
っとうまくいくはずです。今週のキーワードは「自分を信じる」です。
 
〈3月生まれ〉 
自分の気持ちと周りの人の気持ちにズレを感じ、それを必死で自分より
に直そうとはしていませんか。今週は、公平に物事を考えることを心が
けてね。 

〈4月生まれ〉 
希望が叶う一週間となりそうです。今まで努力したことも報われそうで
すよ。今週は元気いっぱい突き進んで下さい。 

〈5月生まれ〉 
周りに厳しくしすぎてはいませんか。人には様々な事情があることを忘
れずに、優しい態度で接してね。 

〈6月生まれ〉 
今週は、ちょっとしたことから勘違いしてしまうかもしれません。あな
たに今週必要なキーワードは、確認です。 

〈7月生まれ〉 
物事を簡単に考えすぎてはいませんか。現実を動かす為には、客観的に
見る力も必要ですよ。 

〈8月生まれ〉 
大きな変化があるかもしれません。その変化はあなたの望んでいた方向
に、扉を開いてくれるかもしれません。今週は、恐れを捨てて前に進ん
でみてね。 

〈9月生まれ〉 
あなたが思う以上に物事がスローペースでいらいらするかもしれません。
でも、時が満ちてくるまで、焦っても仕方が無いことを思いだしてね。
 
〈10月生まれ〉 
自分の思いに捕らわれすぎて、状況を正しく判断できないかもしれませ
ん。また、自分の利益だけに執着していると大切な物も無くしてしまう
かも。今週はおおらかになることを心がけて。 

〈11月生まれ〉 
無理をしようとはしていませんか。今の無理は、あとで自分に大きなダ
メージを与えてしまう可能性もあります。あなたに今週必要なキーワー
ドは客観性です。 

〈12月生まれ〉 
今週は、考えることよりもまず行動が先に走ってしまうかも。熱中する
ことはいいことですが、しっかりと先々を見据えることも忘れずにね。
 


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【3】◆◇日本を堪能する旅 ◆◇
……………………………………………………………………………………
       
       TENsトラベルメンバーの為の旅企画

             残り3席!

  ◇*◆*◇大自然の恵みを思い切り楽しく食べよう◇*◆*◇

        南アルプス・大人の遠足ツアー
       (ボトルワイン1本 お土産つき)

        2009年6月13日(土)〜6月14日(日)
              1泊2日 
    〜夕朝食付き・美味しん坊体験プログラム代込み〜

            25、800円(税込)
             東京・集合解散

             6名限定募集
 
      詳細は http://www.office-ten.net/otona/top.htm


       交通費・宿泊代・朝夕食代・観光案内代
       美味しん坊体験プログラム代込み 

      昼食代・温泉代は各自現地でお支払い下さい。 

 <美味しん坊・体験>

  体験1 さくらんぼ狩り
  体験2 牧場でのチーズ作り体験
  体験3 Myボトルワイン作り(ボトルワイン1本お土産つき)
  おまけの社会見学…お菓子工房見学(アイスクリーム付き)
           天然水ガイドツアー
         
美味しいものを食べると、なぜか幸せな気持ちになりますよね。
今回の旅はズバリ、大自然の恵みを楽しむ旅。
南アルプスや八ヶ岳などの大自然が育んだ、果樹や乳製品を
思い切り味わってください。

南アルプスや八ヶ岳を一望できる広大な牧場では、
新鮮な牛乳を使っての、チーズ作りを楽しみ
日本のワインセラーの聖地、勝沼では、世界に一本だけのオリジナル
Myボトルワインを作ります。
森の中のお菓子工場では、アイスクリームが食べ放題という夢のような
おまけ付き。

でも、なんといってもこの旅のメインは、さくらんぼ狩り。
中でも一年のうち、わずか2週間という高級さくらんぼ「佐藤錦」も
この時期だからこそ、心ゆくまで味わうことができます。
旅の途中で、今や日帰り温泉人気!)1の「ほったらかし温泉」に立ち寄
ったり、日本一との評判高い究極の親子丼をお昼ご飯に食べたり…。

残りは3席。ピン!ときた方は、是非お早めにお申し込み下さい。

初夏の陽気に誘われて、思い切り元気に、そしてハッピーになる旅、
ぜひご一緒いたしましょう!


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【4】◆◇縄文の風を感じる旅◆◇
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             〜 ナチュラリストになろう〜

     先住民族の知恵に学ぶスペシャルプログラム   

          アイヌ・エコ体感ツアー   
      〜3泊4日 北海道・二風谷とフゴッペの洞窟〜
         2009年6月18日(木)〜6月21日(日)

        東京発着  88、000円
           
           残り4席となりました!

       http://www.office-ten.net/nature/2009/top.htm
   
◆代金に含まれているもの:
 往復航空運賃・道内観光・道内移動交通費・貸切バス(車)代
 ホームステイエコプログラム・朝夕食代・ 

◆代金に含まれていないもの:
 昼食代・入浴料・フリータイムの個人移動費・


TENの人気企画「アイヌ・エコ体感ツアー」を4年ぶりに実施します。


アイヌの人々は、縄文の頃からの暮らしの知恵や精神を
今に守り続けている人々であるといわれています。

このツアーでは、アイヌの聖地、北海道・二風谷に行き、
アシリ・レラさんのところにホームステイしながら、
先住民族に伝わる生活の知恵の数々を実体験として学びます。
また、今年はスケールUP。旅の後半には余市のフゴッペ
洞窟(日本に数少ないペトログラフ(古代壁画))見学や
小樽観光なども取り入れました。

山の中に入り、山菜を摘んでアイヌ料理を教えてもらったり、
薬草の見分け方を教えてもらったり、
夜はアイヌ刺繍を習得したりしながら、
自然と共に生きる叡智を、存分に学んでください。

日本の先住民族アイヌの語り部である
アシリ・レラさんのもとで、「生きる」という本質に触れたり、
日本に数少ない、二千年前のペトログラフをじっくり見たりしながら、
今という「貴重な時」を有効に過ごしてください。


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【5】◆◇連載小説◆◇
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<今までのあらすじ>

両親の不仲が原因で自分は不幸だと思い続けてきた祥子。しかし大学2
年の秋アルバイト先で知り合ったアパレルメーカー勤務の良一と出会っ
たことで、両親との関係も少しずつ変化する。父が病気で他界した後は、
母親、敏子との関係も修復されていく。娘、真由子の妊娠を機に大学を
中退し、良一と結婚した祥子は、些細なことに心揺れながらも、それな
りに穏やかに暮していた。しかし、仕事が忙しくなっていく夫。就職が
決まっていく親友。慣れない子育て。少しずつ孤独感が募っていたとこ
ろに夫の不倫疑惑が。自分でも気づかぬうちに、ひがみと嫉妬心が渦巻
き、遂には爆発し…


『雨弓のとき』 (65)
                天川 彩

プツン。

祥子は心の中か、頭の中で何かが確かに切れる音を聞いた。

自分が壊れていくのを微かに感じてはいたが、頭の中は真っ白になって
いく。胸がかきむしられるように苦しい。ドロドロとした感情が自分の
中に噴出し…自分が何をしているのかも、わからなくなっていた。
みんな嫌。みんな大嫌い。
ミンナダイキライ・ミンナダイキライ・ミンナダイキライ…。
まるで、その言葉が呪文のように祥子を取り込んでいった。

そして、ハッと我に返った時。

真由子を床の上に押し倒し、小さな肩を祥子の両手で強く押さえ込んで
いた。そして、その手がまさに、真由子の細い首もとまですべり出そう
としていた。

祥子は慌てて、自分の手を真由子から離した。

ー私、何てことを…ー

祥子は自分が恐ろしくなり、ガタガタと震えだした。
「ママ〜ごめんなちゃい」
真由子は起き上がると祥子に抱きつきながら、おもらししたことを一生
懸命謝っている。祥子は、自分の方こそ謝らなければと思いながらも、
自らへのショックで言葉も失い、ただ真由子を強く抱きしめるだけで精
一杯だった。

ーみんなが嫌いなんじゃない。私のことが大嫌いなんだ。そうだ、私が
この世からいなくなればいいんだ。そう、私が生まれてきたことが間違
っていたんだ。私が静かにいなくなれば、みんな平和になるんだー

祥子の歪んだ感情の刃は、今度は祥子自身に向っていた。
ただ、今度は酷く冷静にジワジワと。

祥子は、真由子を着替えさせると、粗相した絨毯を丁寧に拭き、更に家
の中を綺麗に片付けた。そして真由子お気に入りのアニメDVDを流す
と、真由子は夢中でテレビ画面を見始めた。祥子は、リビングの椅子に
深く腰掛けてしばらく考え…そして、寝室に行った。

ー薬箱の中に入っている薬をいっぱい飲んだら死ねるかな…ー
タンスの奥に入れていた薬箱を取り出そうとした時、上の引き出しが引
っかかり、真っ赤なパスポートが落ちてきた。

良一に「アイルランドに行こう」と誘われて初めて作った青いパスポー
トは、真由子の妊娠で一度も使うことがなかった。婚姻届を出した後
「子どもが生まれたら、子連れでアイルランドへ新婚旅行に行こうよ」
と言われ、切り替えた赤いパスポート。結局、それも一度も使うことが
無いまま、タンスの奥で眠っていた。
祥子は、真新しいままのパスポートを見ているうちに、無性に自分が可
哀想に思えてきた。

ーどうせ、死ぬなら一度は行きたいと思っていたアイルランドに行って、
そこで死ぬのも悪くないかなー

祥子は、薬箱をタンスの中に戻すとパスポートをハンドバックに仕舞い
込み、そしてボストンバッグに洋服や下着を詰め込んだ。

そして、母親の敏子のところへ電話をかけた。朝からの騒動で、仕事を
休んで数時間前に駆けつけてくれた敏子へ再びお願いするのは、少し気
が引けたが、やはり母親にお願いするしかなかった。

「もしもしお母さん、今何処にいる?」
「ちょうど、家に着いたところだけど」
「そう…か。あのさ、悪いけどもう一度来てもらってもいい?」
「どうしたの?やっぱり具合悪いの?」
「そうじゃないんだけど、お母さんに来てもらいたくって…」
「今日は会社休んだし、別にもう一度行くのはいいけど。大丈夫なの?
何か変よ。声も…」
「大丈夫。悪いけど、お願いします」
「わかった。それじゃ、これからまた行くね」
「お母さん…」
祥子は、急に涙が溢れ出してきて言葉に詰まった。
「もしもし、祥子?どうかしたの?本当に大丈夫?」
「お母さん…今まで色々ごめんなさい。そしてありがとう」
「ちょっと、何か変よ。とにかく待っていなさい。すぐそっちに行くか
ら」
「ありがとう」

電話を切った後、祥子はボストンバッグを持って玄関へ向った。
真由子は夢中でアニメを見ている。
「ママ、ちょっとだけお出掛けするけれど、今、バーバが来るからいい
子で待っててね」と声をかけると、素直に「ハーイ」という返事が戻っ
てきた。

祥子は、静かにドアを閉めると駅に向った。

                        つづく…


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【6】◆◇編集後記◆◇
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連載小説、暗くてゴメンナサイ。でも、ここが暗いピーク(心の闇のど
ん底)なので、勘弁して下さい。
ネガティブ志向の祥子ちゃんを、私がこのままにしておくなんて、あり
えないですよね。どう変っていくのか、今後に期待して下さい。

                       aya