2007/02/23━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
☆★☆ TEN's
magazine 第256号 ☆★☆
━━━━━━━━━━━━━━━━━━ http://www.office-ten.net
こんにちは!天川 彩です。
この前日曜日は、旧暦の元旦でした。
皆様は、旧暦正月の行事、何かされましたか?
明治以降、日本でも欧米と同様にグレゴリア暦で何事も進んでいるので
旧暦正月だからと、祝い事をする家庭はほとんどないのでしょうね。
私自身に置き換えても、神戸に住んでいた頃は、南京町で旧暦正月の行
事があったので、時折「そうか〜旧正月か」と思ったことはありました
が、自らが旧正月に意識を向けたのは、今年が初めてでした。
先週のメルマガでもお伝えした通り、その旧暦のお正月を神の島「久高
島」でツアー参加の方々と共に迎えました。映画「久高オデッセイ」の
大重監督も少し体調が戻られ、前日から島で合流することが出来ました。
元旦当日は、島の方々が迎える正月行事を拝見させていただいたことも
貴重な体験でしたが、ニライカナイ信仰(海の彼方の神々の世界であり
ご先祖様がいらっしゃる世界)のもととなっている浜で、感動的な初日
の出を迎えられたことが、何よりの時間でした。
ありがたいことに、雨の予報が見事にはずれ、日の出の時間には海の彼
方の雲が割れて、ゆっくりと太陽が姿を現してくれました。本当に何か
がまた新たに大きく動き出すのだと思わせてくれるような朝でした。
先週に引き続きになりますが、そのニライカナイに繋がっているといわ
れている海の彼方からの初日の出、HPのトップにあげておきます。
メルマガ読者の皆様にも、素晴らしいことが沢山ありますように。
さて、明日はいよいよ、ザ・熊野DAY in東京です。
「熊野か〜。何か気になる…」と思われた方、是非どうぞお越しくださ
い。特に19:00からの夜の部が、席に余裕がありますよ。
熊野のことをたっぷりと皆さんに感じてもらえれば、と思っています。
関西の方は来週ですよ〜♪
それにしても、人智の及ばないことってありますね〜。
今日のコラムはそんなことを書いてみました。
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◇◇今日の目次◇◇
◇◇ ◇◇ ◇◇
◇◇
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1・コラム・風の文様==「神様の計らいごと」
2・スペシャル旅====「ホピとナバホの祈りの大地を巡る旅」
3・TEN占い======今週は「メディスンカード」占い
4・明日開催!======「ザ・熊野DAY」
5・最新情報!======「富士山・幻の滝と苔森と幸せ三昧の旅」
6・新・連載小説=====『雨弓のとき』(7)
7・編集後記=======ひとりごと
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【1】◆◇コラム・風の文様◆◇
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□「神様の計らいごと」
ある若い男性から電話がかかってきた。
「お陰さまで、久高で家族揃って暮らせることになりました」という。
この彼も彼の奥さんも、まだ二十代。お子さんは昨年生まれたばかりな
ので、世間から見たら頼りない若夫婦かもしれない。私は、奥さんと昨
年一度お会いしただけで、電話をかけてきてくれた当のご主人とは、ま
だ一面識もない。しかし丁寧なお手紙や、幾度ものメールや電話でのや
りとりで、彼ら夫妻がどれほど素晴らしく、常識を持った大人なのかが
手に取るようにわかる。
電話口で、嬉しい報告を聞きながら、私は思わず泣きそうになった。
奥さんは、子どもの頃から目に見えない世界と繋がる体質だったらしく
それ故に、親にも他人に理解してもらいにくく、かなり苦しい時期が長
年続いていたそうだ。やっと理解してくれるご主人と出会った後も、彼
女の苦しみは続いていたのだが、ある時、それまで全く存在すら知らな
かった「久高」という島から突然強く呼ばれているような気がする。わ
けがわからないままだったが、どうにか知り合いからお金を借りて、二
人で沖縄まで飛ぶ。そこに行けば、誰か必要な人に必ず会う…という強
い思いに導かれながら久高島に渡り、次々と人と出会いながら、最終的
にある「おばあ」に辿り着くのだ。
そのおばあは、大変凄い力を持っている人物なのだそうだが、ほとんど
今の久高島の表舞台に出ることはなく、そのおばあに出会えたのも奇跡
に近いことだったようだ。彼女は、そのおばあの力によって、人生の全
てをやっと受け入れることができて、子どもの頃からの苦しみから解放
された。
それから数年後、またどうしても島に呼ばれているような気がして、夫
妻は久高島に行く。おばあにも会うのだが、それ以上に今度は神様が子
どもを授けてくださるように強く思ったらしく、事実、夫妻はこの時に
子どもを授かる。
子どもが生まれたことで、彼女も彼も、親として逞しく成長していく。
そして「日常を丁寧に暮らすことこそが一番大切なことだ」というシン
プルな答えに辿り着き、彼女が心痛めていた、彼女のことを理解に苦し
んでいたお母様との関係も修復されていった。彼女も苦しかっただろう
が、きっとお母様も苦しかったに違いない。
彼女を取り巻く全てがよい状態になった時、再び彼女は、何かをキャッ
チする。それは「沖縄で暮らす」というキーワードだった。サラリーマ
ンをしている彼とも、よく話し合い、やはり沖縄で暮らすことを決意。
そして、なぜか私のところに相談メールがきた。私に連絡すると、沖縄
暮らしは実現すると強く思ったらしい。
「唐突ですが、沖縄でどこか働ける場所や住むところ知りませんか?」
本当に人智の及ばないところの作用とは不思議なもので、ちょうど、そ
のメールを受け取った時、久高のある方の所で求人をしていることを知
った。私は間髪いれず、久高島のその方に電話をして、彼女達の事情を
簡単に話して、後は当人同士で話を進めてもらっていた。どうやら事は
トントン拍子に進んだらしく、あれよあれよという間に、一家が島で暮
らす家まで見つかったらしい。しかし、岐宿もそのタイミングで同時に
悲しい別れも重なり、彼女のお母様が急逝されてしまったのだ。
彼女のショックは計り知れないが、お母様が彼岸に旅立たれる前に、長
年のわだかまりが、うそのように解けていって本当によかったと心から
思った。これも、神仏の計らいのような気がしてならない。
そんな事情で、ご主人の方から、四十九日法要を終えたら、あちらで暮
らすことになりました、との報告の電話がかかってきた。
何かが終わり、何かが始まっていく。
世の中には、人智の及ばない世界が存在する。
しかし、そこに依存したり、興味本位で覗き込んでいるのではなく、素
直に謙虚に誠実に、それらを受け入れ生きている彼ら。
大いなるニライカナイが彼らの前に広がっているように、私は思える。
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【2】◆◇スペシャル旅です!◆◇
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○ 続々とお申し込みいただいております ○
天と大地に感謝する旅 スペシャル2007
「アメリカ先住民の教えと母なる大地ツアー」
〜ホピとナバホの祈りの大地を巡る旅〜
★グランドキャニオン★モニュメントバレー★キャニオンデシェイ★
2007年6月20日(水)〜6月26日(火) 7日間
ツアー代金 288、000円(税込み)
<空港諸税は別途お支払いとなります>
*ツアー代金を分割払いで希望される方はご相談ください
募集人員 20名
最低施行人員 8名
20名に達しましたら、締め切らせていただきます。
参加希望の方はお早めにお申し込みください。
詳細 http://www.office-ten.net/hopi/1.htm
*6月22日夏至の日は、ホピの大地で迎えます。
アメリカ国立公園の中でも圧倒的なスケールを誇り
ホピ族の大切な聖地でもあるグランドキャニオン。
ナバホ族の人々の居留地でもある、
西部屈指の公園、モニュメントバレー。
古代人アナサジ族の遺跡が随所に残る国定公園キャニオンデシェイ。
そして、平和の民・ホピ族が守る大地メサ。
壮大な大自然…
祈りの地に吹く風…
先住の民とのふれあい…
貴方が何ものにもとらわれずニュートラルな状態ならば
きっと魂の奥に深くしっかりと、大切なメッセージを
受け取ることができるでしょう。
そして、それらをしっかりキャッチした後は
真逆な先端の街、ロサンゼルスに移動して
映画の都、ハリウッドで最後の一日を過ごしてください。
太古からの風と、最先端の風。
世界の「今」を肌で受け取ってください。
■ツアー代金に含まれるもの
成田→ラスベガス航空運賃 ロサンゼルス→成田航空運賃
アメリカ横断鉄道アムトラック夜行列車運賃(コーチシート)
アメリカ大陸 移動中のバスチャーター代
*セスナ代(参加人数によってセスナ移動する可能性もあります)
モニュメントバレー・ジープツアープログラム参加代
ホテル宿泊代
(宿泊予定地:グランドキャニオン公園内1泊 モニュメントバレイ近
郊1泊 ホピ・カルチャーセンター1泊 ハリウッド1泊)
自由行動日以外の全朝夕食代
■ツアー代金に含まれないもの
成田空港旅客施設使用料 空港税 航空保険料 米国出入国税
昼食代 自由行動日の交通費及び食事代
TEN’sトラベルメンバーの為の旅企画
企画 オフィスTEN/ワールドエキスプレス大阪
主催 株)ワールドエクキプレス 兵庫県知事登録旅行業第2-250
アメリカの大地が呼んでいると思う方、是非ご一緒しましょう。
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【3】◇◆TEN占い◆◇
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所詮、天川 彩が占っているものですので、あまり深刻にとらえず、気
楽に楽しんでくださいね。
今週も[メディスンカード]で1週間の運勢を占ってみました。
2007年2月24日(土)〜3月2日(金)あなたの運勢
〈1月生まれ〉
人や周りの環境に影響されて、噂話にのったり人を批判したりしてはい
ませんか。もしあなた本来の姿ではない、と感じたならば勇気をもって
そこから抜け出しましょう。
〈2月生まれ〉
忙しすぎてイライラしてはいませんか。今のあなたに必要なのは、休息
をとることです。暇ができたらとは思わず、自分の為、周りのためにし
っかり休んでね。
〈3月生まれ〉
今週はあなた自身を大きく変えるチャンスがありそう。もしも様々な意
味であなた自身を大きく変容させたいならば、怖がらず目の前にきたチ
ャンスをつかんでね。
〈4月生まれ〉
気持ちがあれこれ散漫していませんか。また、大切なことをついうっか
り忘れていたりはしていませんか。今週は部屋の整理をしたり、ゆっく
りお風呂に入ったりあなた自身の気を休めて下さい。
〈5月生まれ〉
喜びに満ちた一週間となりそう。また、美的なものに意識が向きそうで
す。コンサートや美術館などに行くと、芸術的な感性がさらに磨かれそ
うですよ。
〈6月生まれ〉
今週は同性の友達と素晴らしい時間を過ごせそうです。いままで想像も
しなかった体験をするかもしれません。積極的に人と会ってみてね。
〈7月生まれ〉
変化が必要だと自分でも思いながら、あれこれ理由を付けてそのまま動
かずにじっとしてはいませんか。今週は勇気を持ってチャレンジしてみ
てください。
〈8月生まれ〉
あれこれ考えすぎて、ゆっくりと息を吸うことを忘れていませんか。今
週は頭ではなく体で感じるためにも十分に新鮮な酸素を吸って下さい。
〈9月生まれ〉
あなたの優しさを思い出してください。人それぞれのあるがままを受け
入れてね。きっとその優しさがあなた自身も救うはずですよ。
〈10月生まれ〉
人生は楽しいものだということを思いだしてください。もしも、ここの
ところつらいことが続いていたとしたら、あなた自身へ何かプレゼント
するのもよいでしょう。
〈11月生まれ〉
チャンスが近づいています。冷静になって今よりも少し視野を広げなが
ら、何が動いているのかを見極めてみましょう。
〈12月生まれ〉
今週は観察力がキーワードです。誰かの言葉や情報よりも、動きをじっ
と見てみましょう。次に何がおこるか察知する能力が身につきそうです
よ。
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【4】◆◇イベント◆◇
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●いよいよ明日です!!
『ザ・熊野DAY』in東京
●そして、来週金曜です!!
『ザ・熊野DAY』in関西
大自然と祈りの聖域『熊野大権現』上映会
&
熊野の魅力と撮影秘話の監督トーク
2004年に世界遺産となった紀伊半島、熊野。人が太古の昔より惹か
れ続けたこの土地に焦点を絞り、1年かけて、撮影・取材したものを美
しい映像と音楽、ナレーションでまとめあげた『熊野大権現』。
人が太古の昔より大切にしてきた感覚を、この「熊野」の映像より感じ
ていただければ幸いです。また、当日は取材するに当たり取りそろえた
豊富な熊野の資料も閲覧できます。監督のトークでは、映像にまつわる
撮影秘話や、熊野の知られざる魅力など、たっぷり皆様にお届けいたし
ます。熊野に一度行ってみたかった方、行ってみたけれど、あまりよく
わからなかった方など、熊野に少しでも興味がある方ならどなたでも遊
びにいらして下さい。音楽家、細野晴臣さん絶賛の美しい映像ですよ。
既にDVDをお持ちの方もよろしければ是非大画面でご覧下さい。
監督・脚本:天川 彩/ナレーション:高樹沙耶/映像62分
●『ザ・熊野DAY』in東京
日 程:2007年2月24日(土)
時 間:昼の部…14:30〜16:00 (開場14:00)
:夜の部…19:00〜20:30 (開場18:30)
会 場:ムーブ町屋 ハイビジョンルーム
(東京メトロ・京成「町屋駅」下車すぐ)
料 金:前売り1500円/ 当 日1800円
定 員:各回 50名限定
東京会場は少人数の会場の為、前売りで定員に達した場合、当日券の販
売はいたしません。予めご了承ください。
● 『ザ・熊野DAY』in大阪
日 程:2007年3月2日(金)
時 間:昼の部…14:30〜16:00 (開場14:00)
:夜の部…19:00〜20:30 (開場18:30)
会 場:トレピエホール
(阪急神戸線「武庫之荘」南口下車すぐ)
厳密には大阪ではありませんが、梅田(大阪)から15分です
料 金:前売1500円
:当日1800円
定 員:各回250名
申込み:http://www.office-ten.net/DVD/day.htm
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【5】◆◇日本を堪能する旅 ◆◇
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♪お申し込みが増えてきていますよ〜♪
富士山 ツアー 2007
幻の滝と苔森と幸せ三昧の旅
2007年5月18日(金)〜5月20日(日)
2泊3日 38、000円
東京発着
(現地集合解散の方 33、000円)
定員 20名 最低施行人員8名
富士山にこの季節だけに現れる、幻の滝。
緑のビロードを敷き詰めたような、新緑の苔森の世界。
満点の星空や、ありがたいほどのご来光。
日本一の霊峰、富士の御山のその中で
幻想的な風景に包まれた至福の時を存分に過ごしてください。
そして湖畔から眺める富士の御姿や青木ヶ原樹海の神秘。
忍野八海の澄み切った湧き水や古きよき日本の姿も楽しんでください。
グルメも唸らせる割烹旅館の御食事や、くつろぎの温泉時間。
こんな贅沢すぎるほどの富士の旅があったでしょうか。
富士登山とはまた違った極上の富士の旅へご案内します。
http://www.office-ten.net/j/2007top.htm
<ツアー代金に含まれるもの>
新宿―河口湖・御殿場―新宿 高速バス代
旅館1泊 山小屋1泊 割烹料理を含む全朝夕食代
全ネイチャーガイド料金
レトロバス1日乗車代
温泉「赤富士の湯」入浴料
コウモリ穴入洞料
<ツアー代金に含まれないもの>
昼食代・路線バス代・浅間神社玉串料(各自千円程度)
おすすめはコレ!
○ 富士山幻の滝・苔森ネイチャーツアー
○ 山中湖 割烹旅館「芳野」
○ 忍野八海
○ 樹海ネイチャーツアー
○ 赤富士の湯
詳しい行程などは、http://www.office-ten.net/j/2007top.htm
TEN’sトラベルメンバーの為の旅企画
企画 オフィスTEN/ワールドエクスプレス大阪
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【6】◆◇連載小説◆◇
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<今までのあらすじ>
高原祥子は、近所に住む高梨良一という男性とあるきっかけで出会う。
しかし出会ったその日に新しい靴を履いていた祥子は、帰り道、靴擦れ
になってしまいサンダルを借りることに。返しに行った日、近所散策の
デートとなり、自分が良一に好意を抱いていることに気付く。
『雨弓のとき』 (7) 天川 彩
「祥子?今、どこ?」
電話の相手は、大学の同級生、黒沢明日香だった。
「家だよ」
「もう帰ってきたの?でさ、どうだったのよ」
「え?」
「え、じゃないでしょ。今日、どうだったのって聞いているんだから」
「うん、まぁね」
「もう…。あんなに行く前は、どうしよう、何着ていこうって相談して
いたくせに」
「さっきまで一緒だったよ」
祥子に、親友と呼べるような存在ができたのは、大学に入ってからだっ
た。熊本出身の黒沢明日香とは、妙にウマがあった。例の展示会のコン
パニオンバイトも、最初は明日香が見つけてきた情報だった。当初の予
定では二人で一緒に行く予定にしていた。しかし前日、明日香は急に風
邪で高熱を出してしまい、結局バイトに行けなくなってしまった。祥子
は、明日香に逐一状況報告をしていたので、当然、バイト最終日の『不
本意な食事誘われ事件』の全貌も把握していた。
「え〜!何?デートしていたの?」
「デートっていうか…何なんだろね」
「だって、さっきまで二人で一緒にいたんでしょ。それをデートって言
わず何なのよ。でさ、何処へ行ったの?」
「近所…」
祥子は蚊の鳴くような小さな声で話していたので、電話口の明日香には
聞こえにくかったようだ。
「え?何て?」
「だから、近所…」
「なんで?お台場とか、表参道とか、日比谷とか…いろいろあるでしょ。
デートなんだから、映画の一つも連れて行ってもらえばよかったのに」
「ほら、人の多い所は私、気後れしちゃうし」
「何言っているの。東京近郊で生まれ育った人が。私なんか、阿蘇のカ
ルデラを見ながら育ったけれど、新宿だって渋谷だって、気後れなんか
しないわよ」
「明日香は、そうだよね。何処でも平気だもんね」
「私のことはいいって。で、どうなったのよ?」
「別に、何もないよ。普通に話して…で、終わり」
「終わりって、何、その男の人、彼女とかいたんだ」
「ううん、今はいないらしい」
「そんな話もしたの。で?で?どうなった?」
「だから、何もないって」
「付き合うことになったりしなかったの?」
「そんな展開ないよ。まだ会ったの二回目だし」
「次はいつ会うの?」
「別に約束していないし」
「何で?」
「だって…だってさ…。私からどう誘ったらいいのよ」
祥子は、この先の感情をうまく言葉に言い表せなかった。その空気が明
日香に真っ直ぐ伝わった。
「あれ?祥子その人のこと、結構マジで気に入っている?」
「やめてよ。気に入るとかじゃなくって…」
「じゃぁ、好きになった。かな?」
「…」
「やったじゃない、祥子。生まれて初めての恋じゃないの?」
「そんな」
「でも、今まで恋したことないんだよね」
「それはそうだけど。でも自分でも、よくわからない」
「その人、今は彼女いないんでしょ。チャンスチャンス。応援するから
さ。あ、ヤバイ。バイト行く時間だ。じゃ月曜日にね」
電話を切った時には、すっかり部屋は薄暗くなっていた。明日香はいつ
もより、少し早めに銭湯へ行く準備をして、再び部屋を出た。
祥子の家の徒歩圏内には、銭湯が数件健在している。昭和の匂いを留め
ている理由の一つに、この銭湯の存在も大きいかもしれない。お気に入
りの銭湯がいくつかあることが祥子は幸せだった。昔、祖母の家にも風
呂がなく、祖母の家に泊まる日は、銭湯だった。家の小さな風呂よりも
広々とした湯船や、長風呂の祖母が、あがってくるまで、番台の上から
流れているテレビをずっと見ることができる時間も好きだった。しかし
祖母の家にも家庭内に風呂が備えられ、いつしか銭湯に行く機会すら無
くなっていた。
だから祥子にとっては、この銭湯通いは苦痛ではなく、楽しい時間だっ
た。この日、祥子は家から一番近くにある銭湯を選んだ。湯船で、一日
のことを思い返していたので、いつもより少し長めに風呂に浸かってし
まい、出た時には、クタクタになっていた。夕食を作るのも面倒になり
近くのコンビニでおでんでも買って帰ろうと、自動ドアの前に立った時
だった。
「あっ!」
夕方別れたはずの良一が、ちょうど店から出てきたところだった。
ノーメイクにジャージ姿。洗面器片手に、首元にはタオルまで巻いてい
た祥子は、声にもならない極短い叫び声をあげ、慌てて洗面器を上に持
ち上げ、顔を隠した。あまりに、日中の格好とはギャップがあり過ぎて
恥ずかし過ぎたのだ。が、既に遅かった。
「あれ、祥子ちゃん」
祥子は仕方がなく、洗面器から顔を出し、ついでに首もとのタオルもズ
ルズルと外した。
「いま銭湯の帰り?」
良一の質問に、祥子は真っ赤になりながら無言で頷いた。
「そうか。それにしてもまさか、一日に二度も会えるとは。やっぱりご
近所さんていうのは凄いね」
今度は、無言で首を振った。
「あれ?本当は僕、嫌われているのかな」
祥子は、無言のまま更に大きく頭を振った。
その時、太ったおばさんが咳払いをした。どうやら祥子と良一は、コン
ビニの入り口を塞いでいたようだった。コンビニ脇の路地に二人で移動
しても、祥子はうつむいたままだった。
良一は、祥子の洗い髪から匂うシャンプーの香りや、ほのかに漂ってく
る石鹸の香りと共に、さっきふいにした質問に、大きく頭を振った意味
を思い返して、急に心臓が高鳴っていた。しかし、自分から何か話しか
けないと会話が進まないことは察していた。
「ね、寒くない?」
「あ、いえ、大丈夫です」
「コンビニに買い物に来ていたんだよね。ごめんね、邪魔しちゃって」
「いえ…たいした用事じゃないので」
「だけどさ、やっぱり僕らよっぽど縁があるんだよね。あの後、家に帰
って洗濯してさ、何か夕飯でも作ろうかと思ってスーパーに行こうとし
ていたら、実家のお袋から電話がかかってきてさ、婆ちゃんの具合だと
か親父の還暦の話だとか、話が長くてね。電話切ったら、もう作るの面
倒になって、コンビニのおでんでいいかなって。ほら」
良一は、コンビニの袋を持ち上げてみせた。
「私も、おでん買おうと思って、コンビニに入ったんです」
「そうなの?」
「はい」
「なんだ。それじゃ、もっと沢山おでん買ってさ、一緒に食べようか。
今からうち来ない?」
「え?」
「…なわけないか。男の一人暮らしの家になんか来ないよな」
「…」
「ごめん、変なこと誘って」
「一緒に外でおでん食べませんか?」
「え?何処で?」
「例えば、また根津神社に行って椅子に座るとか」
「それさ、寒すぎるよ」
「ですよね…」
「じゃ、何かこの辺で一緒に何か食いに行く?」
「だけど、今日はこんな格好だから…」
「近所なんだし、大丈夫だよ」
「だけど…やっぱりやめておきます」
「残念だな。折角、また会えたのにね」
「はい」
「そうだ、明日。明日の予定は?明日も日曜だしさ」
「明日は朝から夜までバイトです」
「そうか。それじゃ無理か」
「あ、あの…また来週とか、どうですか?今度はもう少し違うルートを
案内します」
「そうだね。それじゃ、また来週も近所歩いて、そして今度は夕食の時
間まで一緒にいようか」
「あ、はい」
「じゃ、時間や場所は、今日と同じでいいかな?」
「はい」
「お風呂上りなのに外で引き止めて悪かったね。それじゃ、また来週ね」
良一に見送られるように、祥子は再びコンビニの中に入った。そして、
おでんの大きな鍋を覗き込みながら、良一は何の具を選んだのだろう、
と思った。タマゴ、ダイコン、ハンペン…どれも、まだ煮込みが足りな
さそうで、美味しそうに見えない。コンビニのおでんより、自分の作っ
たおでんの方が断然美味しいのだから、いつか食べさせてあげたいな…
と祥子はふと思った。そしてそんな大胆な自分に驚きながらも、ニヤつ
く顔を止めることができなかった。
つづく…
……………………………………………………………………………………
【7】◆◇編集後記◆◇
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今週、来週と人と会う機会が多い。
いろんな人と出会うたび、新たな展開が広がっていく。来月は、もう3
月。来月も凄いスピードで駆け抜けていきそうだ。
aya