屋久島の森と山の達人』

屋久島に行く度、森や山の案内を頼んでいる人がいる。
その人の名は藤村さん。
屋久島生まれの屋久島育ち。屋久島の山や森のことならほとんど知り尽
くしている達人だ。
山で遭難した人が出ると、救助隊の一員になって幾日も山に入ることも
あるという。
お孫さんが6人もいるとは思えない、がっちりと日焼けした体つきでと
ても若々しい。

藤村さんとは、偶然の出会いだった。
以前、一人で縄文杉に登った時に、偶然、縄文杉の前で一人の画家の方
と出会った。
その方は、一年に4〜5回、屋久島に来ては10日くらい山小屋に泊まっ
て絵を書いている人だった。
その人は、たった一人で縄文杉のところまで登ってきた私に驚きながら
「きっと縄文杉から素敵なプレゼントが君に届くと思うよ」と言ってく
れて、雨でずぶ濡れになりながら住所交換をしたら、後日ハガキが送ら
れてきた。
以後、季節の挨拶状を出し合うようになったのだが、私がツアーを企画
することになって、山を案内してもらうのに適任の人はいないか、その
画家の方に聞きに行った。

「それなら○○さんがいいよ。屋久島のエコガイドとしてはメジャーに
目立ってはいないけれど、間違いなく山の名人だから」

その時、紹介してもらった人を、縄文杉登山のガイドとして依頼した。

ところが、登山の当日ガイドとしてやって来たのは、その方ではなかっ
た。私は内心ガッカリした。

聞くと、山で遭難事故があり、その方は急遽捜索しに行ったらしい。
その方から絶大なる信頼を受けて、急遽私達のツアーのガイドとして入
ってくれたのが、藤村さんだった。

その年、縄文杉登山の途中、私は足を軽く捻挫してしまい、ウィルソン
株という巨大な樹の切り株の中で、3時間過ごしていた。

実はそこでとても不思議なことが起こったので、恐る恐る、藤村さんに
話してみた。
すると、藤村さんは目の色が変り「あなたには、わかるのですね」と言
って、
ご自身が体験された屋久島の山での不思議な体験や話をいくつかしてく
れた。
屋久島に住む人々は、昔から神々と共に暮らしているらしく、信仰深い
島なのだそうだ。
そんな体験話をしているうちに、急速に親しくなっていった。

そんな藤村さんに、今年、映画「もののけ姫」のモデルとして使われた
場所に、案内してもらった。映画「もののけ姫」制作時、幾度も宮崎監
督はじめスタジオ・ジブリのスタッフの方々を幾度も案内したという。

「この岩は、シシガミが眼下に広がる里を眺めた場所だよ」
「ここは、神秘の湖のモデルに使われた場所だよ」
私自身、幾度も通った白谷雲水峡の苔森が違う表情で見えてきた。

「この9月からNHK朝の連ドラ『まんてん』のロケ地に屋久島が選ば
れたんだけど、
この前も浅野温子さんに森を案内してあげたんだよ」とか、
「そうそう…野口 健も幾度か屋久島の山を案内したなぁ」とか、藤村
さんはサラッと言う。
ミーハーな私は「え〜凄い…」なんてすぐに反応してしまうのだが、そ
れにしても、みんなどこで藤村さん情報を仕入れるのだろうか…。
屋久島ガイドとしては、メジャーに雑誌などには登場していないのに…。

「天川さん、君はまだ屋久島の山を見ていない。今度は山をちゃんと教
えてあげなければ…と思っているんだよ。屋久島の山の奥には、もっと
多くの神々がいるんだよ」

山の達人に連れられて、屋久島の奥岳を登った時、何を感じることが出
来るのか、今から楽しみだ。