魂のゆくえ』

3月3日、大切な人のお父様が、突然亡くなった。

しばらく風邪気味で近所の病院にかかってるということは聞いていた。しかし
先週様態が急変し、救急車で運ばれ入院してから、わずか3日目の出来事だっ
た。

夜中に訃報の知らせを受けてから、告別式が終わるまで、ほとんど時間の感覚
がない。突然、長年連れ添った夫を亡くしたお母様と、自分がちゃんとしなけ
れば、と必死に頑張っていた彼。私はそんな二人の傍に、ただいてあげたくて、
数日一緒にいた。


斎場の関係で、お通夜は2日後、告別式は3日後になった。
「親父と一緒にいれる時間が少しでも長くて良かったよ」と彼は悲しみをこら
えながら言った。


私の父も4年前に急死した。
突然の危篤の連絡で、すぐに駆けつけたが、吹雪で飛行機が旋回した為、ギリ
ギリ間に合わず死目に会えなかった。最後に言葉を交したのは兄で、最期に看
取ったのは母だった。私は父と最期の別れが出来なかったことを少し悔やんで
いた。

告別式の朝、美容院の人にそれを話したら「きっと、お父様は苦しんでいる姿
を、娘に見せたくなかったんだと思う。だから、飛行機を旋回させたのはお父
様だったのかもしれないよ。人は死ぬ時、一人ひとりに、何か大切なものを残
していくそうだから、お父様は、元気だった時の記憶だけを娘に残しておこう
と思ったんだよ」と言ってくれた。

父の告別式の時、私は不思議な経験をした。
お坊様の長いお経が終盤にさしかかった頃、ふと棺桶を見ると、静かにゆっく
り薄白いかたまりが宙に上がっていくのが、はっきりと見えたのだ。
私は目で追いながら、父は最期に「魂」が肉体から離れていく姿を私に見せて
くれたんだと思った。

家族や友人を失う。

こんな経験は、できれば誰もしたくない。しかし、生まれた以上、死を迎える
のは、宇宙の法則なのかもしれない。
今生、縁あって親子として、また兄弟として、夫婦として、恋人として、友人
として、師弟として出会い、時間を共有する。その時間が濃ければ濃いほど、
人生に及ぼす影響は大きい。それは決して共にいる時間の長さだけではなく、
言葉を言い換えば、その人とどれだけ魂が触れ合うことができるかで違って
くるような気がする。

共に笑い、共に泣き、生きている意味を共に考える。そんな関係であった場合、
その人の死を受け入れられるのに、かなりの時間を要するかもしれない。
しかし、輪廻転生して、また来世でもきっと縁があるはずだと思う。

でも、魂のゆくえを理解はしていても、悲しみは変わらない。
ならば、その悲しみをあるがままに受け入れて、涙枯れるまで泣いたほうがい
い。きっと同じように亡くなった人の魂も、残された人との今生の別れを、同
じように悲しんでいるのだから。

そして、時間薬がゆっくりと心を癒してくれる頃、魂も天への旅を始めるのか
もしれない。

合掌