ミルミレ』

ミルミレとは、ネパール語で夜明けを意味するそうだ。

事務所の近くに、ネパール・ヒマラヤ料理の店「ミルミレ」がある。

様々な豆と多種のスパイスを使った料理は、どれもスパイシーだが強く自己主
張をするでもなく、素材そのものを生かして優しく調和しているようで、まる
で、この店の主人シャルマさんそのもののような気がする。

シャルマさんは、カトマンズの隣町生まれ。
もともと、日本語が好きで母国でも勉強していたそうだが、ネパールに留学し
てきた谷中のお寺の住職とお友達になって、日本に来ることに。しばらく谷中
のお寺に居候していたそうだが、彼は仏教徒ではなくヒンズー教徒だ。

かつて、日本のテレビ番組の通訳として、ネパールの奥地まで同行し、カイラ
ス山の近くまで行ったことがあるそうだが、チベット仏教の聖地、カイラスは
同時にヒンズー教にとっても聖地なのだそう。ネパールでは、同じ一つの寺院
を仏教徒、ヒンズー教徒それぞれが個々のそれにみたてお参りするというから
、何とおおらかなものかと感心してしまう。
更に、奥様が妊娠中には水天宮でお参りし、根津神社でお宮参りをしたという
から驚きだ。

先日、娘の卒業式でのこと。
「君達の未来は、厳しいものが待ち受けているかもしれない。9月11日以降
、私たちは理解しあわないということの悲痛さを目の当たりに知った。だから
こそ、互いに違う宗教、違う文化を理解しあうことが、どれほど大切なことか
、今こそ考えなければいけない。次世代を担う君達が互いに他を認め合い、共
存していくことこそが、21世紀を生きる確かな道であり、未来を輝かしいも
のにしていくのだ」と教育委員会の方が祝辞の中で話していた。
15歳の彼らがこの言葉をどれほど理解したかはわからない。が、ありきたり
の祝辞ではなく、このような話をしてくれたことが私は嬉しかった。

シャルマンさんは、日本語が流暢に話せるだけでなく、読み書きも出来るので
日本の新聞も読めるそうだ。よほど難しい漢字意外なら、ほぼ書けるらしい。
「その国の文化に触れるなら、とことん触れなきゃね。深く知って理解するほ
うが面白いから」と、さらっとそう言う彼は、自分と違う宗教も文化も楽しみ
ながら受け入れてしまう達人なのかもしれない。

「ミルミレは、夜明けという意味の他に、全ての新しい始まりという意味もあ
るんですよ。」スパイスがほどよく効いた紅茶を入れてくれながらシャルマさ
んは言った。

今、個人レベルから国レベルに至るまで、世界中がガサガサとしている。

攻撃しあい傷つけあって自己主張を繰り返している人々の意識が、互いに理解
しあい受け入れあうという意識に変わった時、新たなミルミレがやってくるの
かしれない。

世界の夜明けは…遠いのか?