木を植える人』

今年、ある人と友人になった。
その人は、某大手商社のサラリーマン。
彼の仕事は都市開発。

「手付かずの広大な場所があるので、そこでウッドストックのような大きな祭
りをしたいと思っているんですよ。仕掛けるための予算もある程度ありますし
きっと天川さんに手伝ってもらうような気がしているので、まずはその場所へ
一緒に行ってください」

どんな場所なのだろう…。

1ヶ月前、私はワクワクしながら、彼と一緒にその場所へ向かった。
高速で約1時間半。かなり都心から離れてその場所はあった。
目の前に広がっていたのは、想像とはかけ離れた中途半端な宅地開発地。
バブルの後遺症とでもいったらいいのだろうか。何十億もの大資本をかけて森
を切り崩し、開発したその土地には1割ほどの住民が暮らしているだけで、後
は無機質に区画整理される為に通された舗装道路と、電信柱が広がるばかりだ
った。

祭り会場にしようと思っている場所に案内される。
しかし、一本の木すら見当たらないその場は、寒々しいばかりで、どうにもピ
ンと来ない。

「天川さん、どうですか?」
と、顔を覗き込まれて聞かれても…返答に困ってしまう。

彼は会社が森を切り崩して乱開発したその場所に、大変強い責任を感じている
らしかった。
だからここに家族と共に住み、NPOを立ち上げて最先端のエコロジカルな街
づくりをして、最先端の意識の人たちが多く住む場所にしたい。そのためにも
多くの人に来て貰う祭りが必要なのだ、と熱く語った。

私は、ふと明治神宮のことを思い出していた。

あの緑豊かな神宮の森は、80年前、人が森を作りたいという願いから植樹し
て、鎮守の森をつくった場所だ。エコロジカルな街づくりを目指すなら、いつ
かその中心が森になるように、植樹していく祭りをしたほうがいいのではない
かと彼に提案した。

彼は、その意見に大賛成してくれた。

ところが先日、その土地を販売するプロジェクトが社内で凍結したそうだ。
そこを売るために仕掛ける事業費は実質上無くなったらしい。

しかし、彼は改めてその土地に住む事を決めた。
そして、少しずつその土地に木を植えていくことにしたという。

「僕は木を植える人なんです」先日会った時、ポツンと彼は語った。
彼は秋田のマタギの子孫なのだ。

人が切り崩してしまった森は、人の力でしか森に戻せない。

「木を植えることが、もしかすると僕の祈りなのかもしれない」

この言葉を聞いた時、彼があの場所に木を植え始めたら、私はどんなかたちで
あれ、祭り起しを手伝おうと思った。