随神(かんながら)』(前編)


カンナガラ。この言葉は普段の社会生活を営む上では、目にすることも、
耳にすることも少ないかもしれない。
しかし、人知を超えて何かが動いていると感じる時、その大いなる力が
示す方向に、導かれるままあるがままに進むことがある。簡単にいうと
神の意のまま、それが随神ということなのかもしれない。

私は「人知を尽くして天命を待つ」という言葉が大好きだ。
自分にできる精一杯をしたら、後は神様の意のまま。
私がとらえる神様とは、宇宙の法則とでもいったらいいのだろうか。
最終的には、目に見えない力が示す方向性に事は全て進んでいくと思っ
ている。

偶然かかってきた電話、偶然出会った人、偶然知った情報。
偶然という名の必然。
それらにひとつひとつ、注釈や解釈をつけず、ただ起こっていること、
ただ向かっていることに感謝していると、思いもよらない流れに導かれ
ていくように、私は思う。

昨年、アイヌのアシリ・レラさんを東京に招いて「アイヌの叡智とユー
カラの夕べ」というイベントを催した。その日、楽屋でこの催しを神戸
でもしよう、ということになり1月31日に決定した。
今年に入ってから、レラさんと電話で話していた時、レラさんが「折角
神戸に行くのなら、イベントの次の日、淡路島の震源地でもう一度お祈
りをしたい」と言う。
もう一度というのは、1998年8月8日『神戸からの祈り』という平和イベ
ントの折、淡路島で震源地の祈りをして以来のことだからだ。
(その時起こった、淡路島での不思議な現象については、昨年発行した
メルマガ連載「神戸からの祈り」の中で詳しく書いてあるので、興味の
ある方は、バックナンバーを読んでほしい)

1月31日の神戸も、レラさんの語りが染み入る素晴らしい催しとなった。
翌日、2月1日は旧暦のお正月。
この日、レラさんと一緒に淡路島に向かったのは、東京から同行してい
るアシスタントのキョウちゃんと、この日車を出してくれることになっ
た旅行代理店のミドリちゃん。そしてイベント3日前に急に連絡が取れた
陶芸家のトモちゃんと私の計5人。
祈りの場は、明石海峡大橋が淡路島と神戸を結ぶラインが見事に見える
ポイントなのだ。
カムイノミ(アイヌ式御神事)に欠かせない、お酒とお供物を近くの店
で購入し、その場へと向かった。

そこは、5年前、宗教哲学者の鎌田東二氏らと一緒に、天河神社奥の院が
ある奈良の大峰山系弥山登拝を終えて、そのまま寝ずに淡路島へ移動して
探し当てた場だった。

海に向かって、カムイノミが始まると、それまで全くなかった白い帯状
の雲がスーッと伸びて来る。
「白竜がやってきたね」。
その後、小さな白い帯状の雲がそのすぐ下に伸びてきた。
私たちは、子供の白竜もやって来たと皆思った。

御神事が終わった後、片付けをしていると、それまで雲に覆われていた
太陽が、信じられないほどの力強さでキラキラと輝いていた。
「ユーカラの中にも、神に仕える女性たちがカムイノミをした後は、必
ずどんなに雲に覆われた天気であっても太陽が顔を現し、やがて女性た
ちを見送ってまた雲に隠れる、と言われているんだよ」とレラさんが言う。

淡路島での御神事を終えて、戻る途中、レラさんが言った通り、太陽は雲
の影に隠れたままになった。

私たちは一路大阪に向かった。

レラさんは、名古屋のホームレスの人々を支援しているグループに頼ま
れ、慰問に行くという。
私も名古屋に誘われたのだが、淡路島の後、私の予定は名古屋ではない
ような気がしていた。

実は、その翌日2月2日の夜は、天河神社の節分前夜に行う鬼の宿に参加
したいと思っていた。だが、天河に行くにはお金が足りなかった。イベ
ントの収益はほとんど出ていないので、アシスタントのキョウちゃんと
二人で向かうには、あまりにも費用がかかり過ぎる。
しかしここ4年、不思議なことにいつも様々な流れから必ずこのご神事
には参加できていたのだ。

きっと、天河の神様に呼ばれたら、今年も行けるだろうけれど…

イベントの直前、そんなことも忘れて、大阪に住む陶芸家の友人トモち
ゃんにイベントのお手伝いをお願いする電話を入れた。
トモちゃんは快く承諾してくれた。そして翌日の淡路島でのお祈りにも、
是非一緒に参加したいという。それから、トモちゃんが「実は、次の日
の2日、天河で護摩野焼きの先達を頼まれて、車で行く事になった」と
いうのだ。
私はあまりの偶然(必然)に驚きながらも、間髪いれず「一緒に2人乗
せてもらっていい?」と聞いてみた。
トモちゃんは、またしても快く承諾してくれた。
電話を切ってから、すぐに天川村にある民宿に電話した。村の中には、
いくつも民宿があるのだが中でも取り分けお気楽なオバチャンが経営す
る宿に電話を入れると、運良く空いていた。

そんな流れで今年も天河での節分に行くことが決まった。
淡路で祈った夜、トモちゃんの家に泊まらせてもらい、翌日私たちは天
河へと向かった。