場を見つける』


生活の場。活動の場。遊びの場。仕事場。etc…。
それは、ものごとのある所であり、テリトリーであり、磁力が働くとこ
ろなのではないだろうか。人は常にどこかの場にいる。
しかし、なかなか「場を見つける」ということは容易ではない。
自分がそこに存在する意義を見つけ、自分らしくあれる場とはそう簡単
に出合えないように思う。

東京に来て3年半。

この東京という場にも慣れてきたので、久しぶりに童話詩ライブをしよ
うという気になった。
まずは、場所探しからだ。
しかし、ほどよい人数と直に向き合うライブには、大げさなホールは不
向きだし、公共施設の会議室では味気なさ過ぎる。やっといい会場を見
つけてみても、既によいと思う日時は埋まっている。
そんなこんなで、ここ数日ずっとインターネットで会場探しをしていた。
そして、ある喫茶店のHPに辿り着いた。

「この場に出合えて、本当に幸せです」
そう書かれたページには、喫茶店から見える風景写真が貼られていた。
心地よさそうな空間。時折カフェライブも行っているようで、なかなか
素敵。電話で問い合わせてみると、希望の日時は空いている。
とにかく行ってみなければわからない、ということでアシスタントのキ
ョウちゃんと、すぐに電車に飛び乗った。
片道、一時間弱の小旅行。
駅からそのお店に続く道は商店街が連なり、とても生活がしやすそうな
雰囲気だ。

HPに載っていた場所は、すぐに見つかった。
洒落た階段を上り切ると、まるでカルフォルニアにいるようなカラッと
した空間が広がっている。お店の中も、外国人の人が半数。
長年アメリカでハンバーガーショップを経営していたというだけあって、
メニューもアメリカナイズされていた。アボカド入りのトーフバーガー
と野菜ス−プを食べながら、しばし、そのお店の場を楽しんだ後、私は
本題をきり出した。
しばらくは、話が進んだのだが、どうしてもライブに対する考え方の違
いがあり、残念ながら折り合いがつかなかった。

その場は喫茶の所有する「場」なのだから、仕方がない。

そう思って帰ろうとしたとき「それなら、この近くの建物で、ちょうど
良さそうなのがあるから、紹介してあげますよ」と、面白そうな場所を
教えてくれた。
このオーナーは、トコトンいい人だ。
早速見に行こうと、教えてもらった場所の持ち主に電話をすると、残念
ながら見学できるのは一ヶ月以上も先になるということで、ここの地域
には、今回はご縁がなかったようだ。

帰りの電車の中、キョウちゃんと、やっぱり今回は私たちの地元でライ
ブ会場を探そうということになった。
そして、いろいろ思い返しているうち、一軒のとてもレトロな旅館を思
い出した。

その名も、旅館『上海楼』。

今時の東京の旅館とは思えない、昔ながらの玄関を一歩入ると、ユーミ
ンの歌ではないが「時が止まった旅館」のよう。
大きな柱時計に磨かれた木の階段。
何とも懐かしい風情が漂う、この旅館の2階大広間を半日借りるのはど
うだろう…。
と、いうことで、電車を降りたその足で真っ直ぐ『上海楼』に向かい、
無理なお願いをしてみた。
すると、すんなり若女将は了承してくれるではないか。
1年半ぶりに行う私の大切なライフワーク。童話詩ライブは、なんとも
味のある旅館『上海楼』で行うこととなった。

私の仕事は場をつくることでもある、と最近思う。
イベントを企画する時、会場探しも当然ながら重要なポイントで、大概
かなりの時間を要する。そうやって見つけた場は、確かに最初から既存
の「場」として存在している。
しかし、何かをそこですることによって、そこに集う人々、そこで行わ
れる事柄のエネルギーが確実に「場」の雰囲気や空気を大きく変えてい
くのだ。

単なる「場所」からエネルギーを持った「場」へ。

築五十年の昔懐かしい旅館の大広間が、どのような空間に展開していくのか…。

それは、私にもわからない。

しかし、場とのコラボレージョンはいつも楽しい。